福岡県済生会二日市病院

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睡眠医療センター

不眠症

不眠症とは、① 夜間の眠れない状態が続き、② 日中に精神や身体の不調を自覚して生活の質が低下する、といった症状を指します。このうち、治療の対象となる慢性不眠症は、不眠と日中の不調が週に3日以上で、それが3カ月以上続く場合を指します。重要なことは、単に睡眠時間が短いといったことではなく、昼間に眠気でお困りであることです。実際には、一般成人の30〜40%が何らかの不眠症状をお持ちで、女性に多い傾向があります。このうち、慢性不眠症は成人の約10%に見られ、その原因はストレス、精神疾患、神経疾患、アルコール、薬剤の副作用など多岐にわたります。また、加齢とともに不眠症状は増加し、60歳以上では半数以上の方で認められます。

不眠症の分類にはいくつかのものがありますが、主に、入眠障害(寝つきが悪い=床についた後、眠るまでの時聞が延長しているもの)、中途覚醒(寝ている間に何回も起きて再び寝つけない、睡眠の持続の障害)、早朝覚醒(本人が望む時刻、あるいは通常の起床時刻の2時間以上前に目が覚めてしてしまい、その後再度入眠できない状態)、熟眠障害(睡眠時間は十分であるにもかかわらず深く眠った感覚が得られない状態)などに分けられます。
不眠には、原因が明らかなものとそうでないものがありますが、おもな原因には、①身体的原因(痛み・痒み・睡眠時無呼吸・夜間頻尿・加齢など)、②生理学的原因(夜勤など)、③心理学的原因(トラブルやストレス)、④精神医学的原因(不安症・うつ病など)、⑤薬理学的原因(薬剤・カフェイン・アルコールなど)があります。

不眠への対処法は、厚生労働省e-ヘルスネットに詳細に書かれていますので、三島和夫先生による解説をご紹介します。

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① 就寝・起床時間を一定に:週末の夜ふかしや休日の寝坊、昼寝のしすぎは体内時計を乱すので注意してください。平日・週末にかかわらず同じ時刻に起床・就床する習慣を身につけることが大事です。

② 昼寝:日中に眠気があるときは午後3時前までに30分以内の昼寝をとると効果的。

③ 睡眠時間にこだわらない:睡眠時間には個人差があります。「◯◯時間眠りたい!」と目標を立てないでください。どうしても眠気がないときは思い切って寝床から出ましょう。眠れずに悶々としたまま寝床にいると、不安や緊張が増してますます目が冴えてしまいます。

④ 太陽の光を浴びる:太陽光など強い光には体内時計を調整する働きがあります。早朝に光を浴びると夜寝つく時間が早くなり、朝も早く起きられるようになります。つまり「早寝早起き」の順番ではなく、「早起きすることが早寝につながる」のです。逆に、夜に強い照明を浴びすぎると、体内時計が遅れて早起きが辛くなります。テレビやスマホ、昼間の色の蛍光灯に含まれているブルーライトは目を覚まします。

⑤ 適度の運動を:ほどよい肉体的疲労は心地よい眠りを生み出してくれます。運動は午前よりも午後に、軽く汗ばむ程度の運動をするのがよいようです。激しい運動は交感神経を興奮させてむしろ寝つきを悪くするため逆効果です。負担にならない程度の有酸素運動の継続を。

⑥ 自分流のストレス解消法を:音楽・読書・スポーツ・旅行など、自分に合った趣味をみつけて上手に気分転換をはかり、ストレスをためないようにしましょう。

⑦ 寝る前にリラックスタイムを:睡眠前に副交感神経を活発にさせることが良眠のコツです。ぬるめのお風呂にゆっくり入り、好きな音楽や読書などでリラックス。半身浴は心臓への負担も少なく、副交感神経を優位にさせ、睡眠の質を向上させてくれます。

⑧ 寝酒はダメ:お酒は睡眠にとって百害あって一利なし。特に深酒は禁物です。寝酒をすると寝つきがよくなるように思えますが、効果は短時間しか続きません。飲酒後は深い睡眠が減り、早朝覚醒が増えてきます。不眠対処に使ってはなりません。

⑨ 快適な寝室づくりを:ベッド・布団・枕・照明などは自分に合ったものを選びましょう。睡眠のための適温は20℃前後で、湿度は40~70%くらい。

⑩ 不眠恐怖の悪循環を断つ:眠れない日々が続くと「また今夜も眠れないのではないか」と不安になり、「早く眠らなければ」と焦れば焦るほど目が冴えてしまいます。不眠が続くうちに寝床に向かうだけで緊張してしまい、夜になるのが憂うつになってきます。これを不眠恐怖といい、これにより不眠が慢性化します。そのようなときは、「どうせいつかは眠くなるのだから、眠くなるまで起きていよう」くらいに割り切ったほうが好結果をもたらします。眠れないのに我慢して無理に寝床にいると、不眠が悪化します。常識的な範囲内で寝床の中で休む時間を決めて、眠れなければベッドから出ること、前日の睡眠状態にかかわらず日中はなるべく活動的に過ごすことが大切です。

⑪ 専門医に相談することを躊躇しない:不眠症の治療はかかりつけの病院でされることが大部分です。不眠が続く場合には、まずかかりつけ医に相談してみるといいでしょう。病院を受診して不眠について相談するだけでも不眠恐怖は和らぎます。睡眠指導や睡眠薬などによる治療を受けても治らないときには睡眠専門医(精神科や心療内科などが多い)に相談をしましょう。大切なのは、眠れないことを一人でくよくよ考え込まないこと。心配する気持ちそのものが、不眠を悪化させるだけではなく、こころ(うつなど)やからだ(ストレス性疾患など)に悪影響を与えてしまうということです。

⑫ 睡眠薬は怖いクスリ?:「睡眠薬は一度使い始めると手放せなくなる?」「次第に量が増えていくので副作用が怖い?」「服用していると認知症になってしまう?」⇒答えは「NO!」です。正しく服用すれば過度の心配はいりません。最近は、依存性や認知機能障害の心配が少ない睡眠薬も開発されています。ただし、長期にわたって漫然と使い続けるのはよくありません。医師の指導の下に適切に使用することが大事です。
ドラッグストアで購入できる市販の睡眠薬は?これはアレルギー薬の副作用(眠気)を利用したもので、あくまでも短期間の使用に限られています。不眠症に対する治療効果は確かめられていませんので、不眠症の方はこれら市販の睡眠薬を長期に用いてはなりません(薬の注意書きにもそのように書いてありますので確認してください)。
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睡眠薬について

睡眠薬には非常にたくさんの種類があります。50年以上前の睡眠薬は多量に服用すると死に至るようなものでしたが、1960年代になるとベンゾジアゼピン系睡眠薬と言われるより安全な睡眠薬が登場しました。長い時間作用するタイプから短い時間作用するタイプまで、様々なものが発売され、症状に応じて使用されました。その後、1980年代になると、同じような作用ですが、ふらつきなどが少ないより安全性を増した、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が発売され、現在まで多く使用されています。2010年になると、睡眠のメカニズムが明らかになってきたこともあり、それまでの脳全体の働きを抑え込むような薬物ではなく、睡眠物質の一つであるメラトニンと同じような作用をする睡眠薬が我が国で開発されました。また、覚醒の中心物質である、これも日本人が発見に深く関与したオレキシンという物質を抑えるピンポイントに聞く睡眠薬が発売され、現在では、各々の特徴を生かして選択され、臨床の現場で使用されています。
どのお薬が一番いい、というのではなく、その患者さんの症状、年齢、他の病気などに応じて適切に睡眠薬を選び、可能な限り短期間使用するように治療を行うことが基本です。